第2回では拠出時の所得控除のメリットを解説しましたが、今回は60歳以降に受け取る時の話です。
*本記事では税金関連の内容を含みますが、管理人は税理士の資格を持っておりません。あくまで一般的な内容に留めますので、詳しくは税理士、税務署にご確認下さい。
[最終更新日:2021.12.8]退職所得控除調整期間の14年を19年に改定。
[2020.6.30]最新の情報に更新。
本記事は記事執筆時点の情報に基づき記載しています。
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個人型確定拠出年金(iDeCo/イデコ)の受け取り方法
個人型確定拠出年金(iDeCo)は、老齢給付金として、一時金で受取る方法、年金として受取る方法、あるいは両者を併用して一部を一時金、残りを年金として受取る方法(併給)があります。
ただ、これらの受取り方の種類(年金の受取年数、併給に対応しているか等)は各金融機関のプランにより異なりますので注意してください。
受給開始年齢は、企業型確定拠出年金を含めて10年以上あれば60歳から可能です。ただ、70歳まで受給を引き延ばす事も出来ます。その場合、拠出はできませんが運用は可能です。
2022年4月以降、受給開始時期が60歳から75歳までの間と、従来70歳だったのが75歳まで拡大されます。
一時金として受け取る場合
退職金と同様の扱いになり、退職所得控除として税制優遇措置を受けられます。
退職所得控除は
勤続年数20年以下 : 勤続年数 x 40万円 (最低80万円) --- (式1)
勤続年数20年以上 : 800万円 + 70万円 x (勤続年数 - 20年) --- (式2)
*1年未満の端数は切上げ
さらに、上記の退職所得控除を控除した残りの額の1/2に対してのみ課税されます。
課税所得 = ( 退職金収入 - 退職所得控除) /2 --- (式3)
ここで、勤続年数とは確定拠出年金に加入していた年数です。例え無職であろうとも、個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入(拠出)している期間を勤続年数として加算してくれます。
企業型確定拠出年金の場合、当初、確定給付型企業年金だったものが、制度変更で企業型確定拠出年金になった場合、確定給付型企業年金の加入年数も足される場合があります。お勤め先の担当部門にご確認ください。
例えば、入社と同時に確定給付型企業年金に加入、その後、企業型確定拠出年金に制度変更になり、確定給付型企業年金の資産を企業型確定拠出年金に移管。さらに、その数年後、会社を退職。そして退職後2~3カ月間のブランクをおいて個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入という経緯をたどっている場合、加入期間は、退職後のブランク期間は除き、入社から現在までとなります。
年金として受け取る場合
公的年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金)にも税金がかかります。そして、確定拠出年金を年金として受取る場合にも同じように税金がかかります。
ただし公的年金等控除というものがあり、確定拠出年金も公的年金等控除の対象になります。
年金収入にもよりますが、65歳未満なら最低60万、65歳以上なら最低110万円の控除が受けられます。要は、それぞれ60万、110万円以内であれば、全く税金がかからないという事です。さらに基礎控除が所得税・住民税それぞれ48万円・43万円ありますので(合計所得金額2,400万円以下の場合)、他に収入が無ければ、この額を足した金額まで非課税です。
*公的年金等控除は2020年より10万円引き下げられました。その分、基礎控除が一定の所得以下であれば引き上げられました。
拠出時にも所得控除され、受取時も税制優遇措置がある、こんな素晴らしい制度はないですね、と言いたいところですが、おいしい話には裏がある?
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iDeCo 控除額を超えたら、なんと元本まで税金がかかる!
今まで説明してきた退職所得控除や公的年金等控除ですが、確定拠出年金の受給額だけで計算してくれるのではありません。
一時金で受給する場合
サラリーマンの多くの方が、退職時に会社から退職一時金(いわゆる退職金)を受け取ると思います。
例えば60歳で定年退職、その時に、会社からの退職一時金と確定拠出年金の一時金の両方を受取る場合、基本的に退職一時金と確定拠出年金の一時金、合わせた額から退職所得控除を引いた額の半分について課税されます。
退職一時金をたくさんもらわれる方、それだけで退職所得控除を使い切ってしまいます。そうすると確定拠出年金の一時金は、その半分だけとはいえ課税されてしまうのです。
確定拠出年金での運用がうまくいかず、最終的に拠出したトータルの金額より、一時金の方が少なくなってしまった、要は元本割れしてしまうケースもあります。「税金って利益にだけしかかからないから、結局損しちゃた確定拠出年金の一時金は税金なんてかからないよ」と思うのが普通ですよね。
しかし違います。利益が出ていようがなかろうが、元本を含めた全体(の1/2)に対して課税されます。
60歳の定年を待たずに早期退職し、多少なりとも退職一時金を頂いて、その後、60歳で確定拠出年金の一時金を受け取った場合も、基本的な考え方は同じです。
ただし、退職後、個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入している期間も勤続年数とみなされますので、その分の退職所得控除額は増えます。
退職一時金と確定拠出年金の退職所得控除の計算例
具体的な例で説明します。
55歳の時、30年間勤めた会社を退職し退職金をもらった方が、60歳になった時、確定拠出年金を一時金で受けとるとします。確定拠出年金の加入期間は企業型、個人型合わせて20年のケースで考えます(40歳で企業型確定拠出年金に加入)。会社に勤めていた期間と確定拠出年金加入期間が15年重複している事になります。
退職一時金が退職所得控除より多い場合
55歳の時もらった退職一時金が2000万円とします。
退職金受取時の退職所得控除額は、(式2)より800 + 70 x (30 -20) = 1500万円になりますが、それより退職一時金の額が多い場合です。
そして60歳の時、確定拠出年金を一時金で受給します。
確定拠出年金の加入期間が20年なので、式1,2より退職所得控除 800万円となりますが、残念ながら800万円全てを控除する事は出来ません。
なぜなら、40歳から55歳までの15年間分の退職所得控除は、会社を退職した時の退職一時金で既に使いきっているからです。
確定拠出年金の加入期間と退職一時金をもらった会社の勤務年数の重複した部分は認めないという事です。
結局、このケースの確定拠出年金一時金に対する退職所得控除は、
[20年分の800万円] - [15年分の600万円] = 200万円となり、
(確定拠出年金一時金 -200万円 ) /2に対して課税されます。
退職一時金が退職所得控除より少ない場合
55歳の時もらった退職一時金が1000万円とします。
今度は退職所得控除額1500万円より少ない場合です。
先ず、もらった1,000万円を式2に当てはめて、年数に換算します。
800 + 70 x ( Z - 20) = 1000万円
Z= 22.9 小数点を切り捨てて22年となります。30年間勤めたのに22年分の控除しか使っていない事になります。8年分が余ってますね。
そこで、15年間重複していますが、余った8年分を引いて7年間重複したと考えます。
重複した期間であっても、使用してない控除額に対応する年数分は重複期間から差し引いてくれるという事です。
結局、確定拠出年金一時金に対する退職所得控除は、
[20年分の800万円] - [7年分の280万円] = 520万円使える事になります。
(確定拠出年金一時金 -520万円 ) /2に対して課税されます。
以上のように、特に会社からの退職一時金が多い方、退職所得控除以上の退職一時金をもらえる方は注意が必要です。
年金で受給する場合
この場合は単純です。
単に、国民年金、厚生年金(受給する時は老齢基礎年金、老齢厚生年金)等と、確定拠出年金の年金受取り分の合計が合わせて、65歳未満 60万円、65歳以上 110万円以上であれば課税される可能性があります。
*実際は基礎控除や他の所得との合算で課税額が決まります。また公的年金等控除額は年金額に応じて変わります。
勿論、確定拠出年金の運用結果、利益が出たかどうかなんて関係ありません。
ただ、60歳以降の所得額によりますが、一般的には現役の時より所得が少なくなると思います。その分、税率も下がりますので、拠出時の所得控除と受給時の税金、どちらが得か良く考える必要があります。
それと、課税の方は単純なのですが、年金受取の場合は、その後の国民健康保険料などにも影響しますので注意が必要です。
さらに、年金所得が多いと(勿論、年金に限らず他の所得も合わせてですが)、70歳以上の医療費負担も上がる可能性があります。(現役並み所得者として3割負担)
詳しくは下記記事も参考にして下さい。
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少しでも確定拠出年金(iDeCo/企業型DC)の課税負担を少なくする方法
確定拠出年金の受取を一時金と年金で分割(併給)
退職所得控除の範囲内で一時金を、そして、公的年金等控除(+基礎控除など)の範囲内で年金を受給する、併給と言われる方法です。
年金は受取年数5年として、公的年金の受給が始まる65歳(*)までに全額受取るのが効率的です。
*男性 S.36.4.2、女性 S.41.4.2以降に生まれた方
逆に言えば、その範囲内になるよう確定拠出年金(iDeCo)の拠出額を決めれば良いのです。勿論、確定拠出年金の運用結果にもよりますので、厳密に計算する事は無理ですが。
ただし、併給に対応していない金融機関もありますのでご注意ください。
併給の重要性については下記記事も参照ください。
退職金受取から、確定拠出年金の一時金受取時期を15年以上あける。
先ほど説明した退職所得控除、退職一時金と確定拠出年金加入期間の重複期間を差し引く計算、これは確定拠出年金一時金受取の前年以前14年以内に他の退職金を受け取っていたケースです。
という事は15年以上あければ、これは適用されないという事です。
幸い確定拠出年金の受取は70歳になるまで引き延ばすことが出来ます。したがって50歳代前半で退職金を受け取った方なら、確定拠出年金の受取をギリギリまで引き延ばす事により退職所得控除をフルに活用することが出来ます。
2022年4月以降、受給可能年齢が75歳まで引き上げられます。一方で、退職所得控除の調整が行われる期間が14年から19年に改正されます。
先に確定拠出年金一時金受取、その後企業からの退職一時金
また、先に確定拠出年金の一時金を受け取り、その後、企業から退職一時金を受け取る順番にすれば、重複期間を差引く条件が前年4年以内と短くなります。
即ち、確定拠出年金受取後、5年以上あけて退職金をもらう方法です。
1年でも受取りをずらす
前述の15年、5年と長い期間を開けられない場合、少なくとも1年ずらすだけで税金が少なくなる場合があります。
所得税は累進課税で、所得が多くなると税率が高くなります。
そこで、企業からの退職一時金、確定拠出年金からの一時金を同じ年にもらって、その年の所得額を上げるより、受け取る年をずらすだけで減税になる場合があります。
まとめ
確定拠出年金受取時には、一時金として受取る場合は退職所得控除、年金として受取る場合は公的年金等控除と税制優遇を受ける事が出来ます。
しかし、控除額を超えると、確定拠出年金の損益に関わらず元本を含めた全体(一時金の場合は1/2)に課税されることに注意しましょう。
確定拠出年金は非課税ではなく税の繰延べです。完全に非課税のNISAとは違います。
ただし、拠出額、受取方法を工夫する事により、少しでも節税する事は可能です。
重要本記事だけを読んでiDeCoは損だなんて思わないでください。既に所得控除という大きな恩恵を受けている事を忘れずに。
次回(第4回)は、実際の運用について説明します。
第1回個人型確定拠出年金(iDeCo) そのメリットとデメリットを徹底解説(1) ~概要編~
第2回個人型確定拠出年金(iDeCo) そのメリットとデメリットを徹底解説(2) ~所得控除に勝る資産運用無し~
第3回(本記事)個人型確定拠出年金(iDeCo) そのメリットとデメリットを徹底解説(3) ~え、元本にも税金かかる!~
第4回個人型確定拠出年金(iDeCo) そのメリットとデメリットを徹底解説(4) ~運用編~
第5回個人型確定拠出年金(iDeCo) そのメリットとデメリットを徹底解説(5) ~手数料&特別法人税~
第6回個人型確定拠出年金(iDeCo) そのメリットとデメリットを徹底解説(6) ~まとめ~
運営管理機関手数料無料のSBI証券、楽天証券、マネックス証券、松井証券、イオン銀行など、下記ページに主要金融機関のiDeCoをより詳しく比較・解説してあります。