米国ETFを介して新興国の株式に投資するインデックスファンド、楽天・新興国株式インデックス・ファンド[愛称:楽天・バンガード・ファンド(新興国株式)]について解説します。
[最終更新日:2019.9.17]消費税10%表記に変更。
実質コストなど2期目決算の結果を反映。
[2019.8.28]ライバルのつみたて、Smart-i、iFreeの実質コスト更新。
[2019.8.22]初版。本記事は原則2019年7月末日時点の情報に基づき記載しています。
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楽天・新興国株式インデックス・ファンド[愛称:楽天・バンガード・ファンド(新興国株式)]の基本情報
楽天・バンガード・ファンドシリーズは、楽天投信投資顧問が米国大手投信会社の日本法人 バンガード・インベストメンツ・ジャパン株式会社と協働し、バンガードETFに投資する低コストのインデックスファンドです。
今回解説するのは新興国の株式に投資する楽天・新興国株式インデックス・ファンド[愛称:楽天・バンガード・ファンド(新興国株式)]。
先ず、楽天・新興国株式インデックス・ファンドの基本情報をまとめます。
運用会社 | 楽天投信投資顧問 |
設定日 | 2017年11月17日 |
運用形態 | インデックスファンド |
投資形態 | ファミリーファンド *マザーファンドがETFに投資するので事実上FOF。 |
ベンチマーク | FTSEエマージング・マーケッツ・オールキャップ(含む中国A株)・インデックス (配当込み・ネット) |
購入時手数料 | 無 |
信託財産留保額 | 無 |
信託報酬(税込) | 0.2520% (投資先ETF経費率 0.12%含む) |
実質コスト | 0.450% |
純資産総額 | 11.20億円(2019.8.21時点) |
(マザーファンド) 純資産総額 | 11.71億円(2019.7.16時点) |
分配金実績 | 無 |
つみたてNISA | 対象外 |
SBI証券ポイント還元年率 | 0.03% |
楽天証券ポイント還元年率 | 0.048% |
投資対象
ベンチマークはFTSEエマージング・マーケッツ・オールキャップ(含む中国A株)・インデックス[配当込み・ネット]で新興国の大・中・小型株に投資します。
ネットとは配当に対する源泉徴収税を考慮した指数の事です。(その源泉徴収税率が日本に対して適切なものなのかは定かではありません)
但し、投資先ETFの分配金に対する米国課税は考慮されていません。
(注)配当込・ネットは楽天投信投資顧問に確認しましたが公表された情報ではない為、その真偽を保証するものではありません。
多くの新興国株式インデックスファンドがベンチマークとしているMSCI エマージング・マーケット・インデックスとは異なりますので注意して下さい。(違いについては後述)
*インデックスファンドのベンチマークは[除く配当]と[配当込]の2種類ありますが、[除く配当]だからといって(過去において)運用成績が劣るという事はありません。詳細は下記記事を参照して下さい。
参考記事インデックスファンドのベンチマーク、配当込、配当除くで実際の運用成績は異なるか?
ただ、運用報告書などに記載されているベンチマークとの乖離を見る時は注意して下さい。ベンチマークが配当を含んでいませんので、通常はファンドの方が騰落率が高くなります。
参考記事【インデックスファンド】運用報告書でのベンチマークとの乖離の見方、乖離0だから単純に素晴らしいファンドとは言えません。
投資先ETF
楽天・新興国株式インデックス・ファンドはファミリーファンドとなっていますが、下図のようにマザーファンドが米国Vanguard(バンガード)社のETFに投資する実質的なFOFです。
画像引用:楽天・新興国株式インデックス・ファンド交付目論見書
投資対象のETFはバンガード・FTSE・エマージング・マーケッツ【VWO】。
ETF | 投資対象 | ベンチマーク | 経費率 |
Vabguard FTSE Emerging Markets ETF【VWO】 | 新興国株式 | FTSE Emerging Markets All Cap China A Inclusion Index | 0.12% |
ベンチマーク ~FTSEエマージング・マーケッツ・オールキャップ(含む中国A株)・インデックスとMSCI エマージング・マーケット・インデックスとの違い~
本ファンドがベンチマークとしているFTSEエマージング・マーケッツ・オールキャップ(含む中国A株)・インデックスを、FTSEエマージング・インデックス、及び多くの新興国株式のベンチマークとなっているMSCI エマージング・マーケット・インデックスと比較しつつ解説します。
インデックス | FTSE Emerging Markets All Cap China A Inclusion Index | FTSE Emerging Index | MSCI Emerging Markets Index |
ベンダー | FTSE | FTSE | MSCI |
投資国 | 24カ国 | 24カ国 | 26カ国 |
タイプ | 時価総額加重 | 時価総額加重 | 時価総額加重 |
投資対象 時価総額 | 大・中・小型 | 大・中型 | 大・中型 |
投資銘柄数 | 4,003 | 1,749 | 1,193 |
主な インデックス ファンド | 楽天・新興国株式 インデックス (楽天・バンガード・ファンド) | SBI・新興国株式 インデックス (雪だるま) | eMAXIS Slim 新興国株式 |
主な 米国ETF | Vabguard FTSE Emerging Markets ETF【VWO】 | Schwab Emerging Markets Equity ETF【SCHE】 | iShares MSCI Emerging Markets ETF【EEM】 |
データ引用元:各インデックスのFACTSHEET
全て時価総額加重型の指数ですが、楽天・新興国株式インデックスがベンチマークとしているFTSEエマージング・マーケッツ・オールキャップ(含む中国A株)・インデックスは大型・中型に加え小型株をも含みます。
その為、保有銘柄数が4,003と他のインデックスの2~4倍多くなっています。
投資国、及び各国の配分比率を下図に示します。
FTSEエマージング・マーケッツ・オールキャップ(含む中国A株)・インデックスは韓国を含みません。これはFTSEが韓国を先進国と分類している為で、ここがMSCI エマージング・マーケット・インデックスとの大きな違いです。
また、同じFTSEが提供し大・中型株を対象とするFTSEエマージング・インデックスとは国別配分比率は概ね同じ、FTSEエマージング・マーケッツ・オールキャップ(含む中国A株)・インデックスが中国A株を含む分、若干中国比率が高く、その分、その他の国の比率が下がっています。
(中国A株 : 人民元建てで中国国内投資家専用だったものが一部海外機関投資家にも開放)
投資国の詳細は下記記事を参照して下さい。
参考記事【外国株式インデックスファンド】各インデックス(指数)、そして先進国、新興国ってどこの国?
投資銘柄
楽天・新興国株式インデックス・ファンドが投資するバンガード・FTSE・エマージング・マーケッツ【VWO】は約4,700の銘柄を保有しています。
組入上位10銘柄は下表。10位中5銘柄を中国企業が占めています。
画像引用:楽天・新興国株式インデックス・ファンド月次レポート(2019/7)
手数料(信託報酬、実質コストなど)
楽天・新興国株式インデックス・ファンドの信託報酬は0.1320%、
これに投資先ETF経費率0.12%を加えた実質的な信託報酬は0.2520%。
FOFでは、ファンドの信託報酬、ETF経費率の両方がかかりますので若干高くなりますが、それでも多くの新興国株式インデックスファンドよりは十分低コストです。
実質コストは2期目回決算で0.450%。
1期目の0.601%から、(VWOの引下げ分0.02%を含めて)0.444%(消費税10%換算で0.450%)と下がってはいますが、未だ信託報酬以外のコストが低いとは言えません。
(新興国株式では全般的に信託報酬以外のコストが高くなる傾向にありますが、楽天・新興国株式のようなFOFでは、新興国特有のコストは投資先ETFの経費率に含まれますので、本来ならもっと信託報酬以外のコストが低く出来るものと推測します。)
同じ楽天・バンガード・ファンドの全世界株式、全米株式は2期目決算で十分許容できる範囲まで下がってきましたが、楽天・新興国株式インデックス・ファンドは(後述するように)あまり純資産が増えていない事もあり、このような結果になったのでしょう。
勿論、購入時手数料無料(ノーロード)、信託財産留保額は無です。
*実質コストは信託報酬以外のコストに全て消費税がかかると仮定して、消費税8%から10%に換算した概算値です。
他社 類似ファンド(新興国株式インデックスファンド)との信託報酬・実質コスト比較
他社の(低コスト)新興国株式インデックスファンドと信託報酬・実質コストを比較します。
尚、下表中、楽天・新興国株式インデックス・ファンド、SBI・新興国株式インデックス・ファンド、及びiFree新興国株式インデックス以外のファンドはMSCI エマージング・マーケット・インデックスをベンチマークとするインデックスファンドです。
*[]内は各ファンドのベンチマーク
ファンド | 信託報酬 | 実質コスト | |
---|---|---|---|
1 | SBI・新興国株式インデックス・ファンド [FTSEエマージング] | 0.1960% | 0.372% |
2 | eMAXIS Slim 新興国株式インデックス [MSCI EM] | 0.2079% | 0.388% |
2 | <購入・換金手数料なし>ニッセイ新興国株式インデックス [MSCI EM] | 0.2079% | 1.620% |
4 | 楽天・新興国株式インデックス・ファンド [FTSEエマージング・オールキャップ] | 0.2520% | 0.450% |
5 | i-SMT 新興国株式インデックス [MSCI EM] | 0.3630% | 0.584% |
6 | (三菱UFJ)つみたて新興国株式 [MSCI EM] | 0.3740% | 0.569% |
6 | たわらノーロード新興国株式 [MSCI EM] | 0.3740% | 0.659% |
6 | 三井住友・DC新興国株式インデックス [MSCI EM] | 0.3740% | 1.078% |
6 | Smart-i新興国株式インデックス [MSCI EM] | 0.3740% | 0.874% |
6 | iFree 新興国株式インデックス [FTSE RAFIエマージング] | 0.3740% | 0.700% |
*実質コストは信託報酬以外のコストに全て消費税がかかると仮定して、消費税8%から10%に換算した概算値です。
楽天・新興国株式インデックス・ファンドは信託報酬で最安値のSBI・新興国株式インデックス・ファンド、eMAXIS Slim新興国株式インデックスファンドより約0.04~0.06%高くなっています。そして実質コストでは約0.06~0.08%の差がついています。
FOFによる三重課税の問題
楽天・新興国株式インデックス・ファンドは米国ETFを介して新興国各国の株式に投資しますが、投資先の株式から配当が出た場合、
- 現地国(新興国)で源泉徴収
- ETFが分配金を出すとき米国で10%の源泉徴収
- 楽天・新興国株式インデックス・ファンドが分配金を出さないとすると、売却時に譲渡益として国内課税。
このように現地国、米国、日本の3カ国で税金が徴収される事になります。
国内から直接投資する、例えばeMAXIS Slim新興国株式インデックスのような場合、2の米国課税が不要ですので、この分楽天・新興国株式インデックス・ファンドは不利となります。
現地国の源泉徴収税率が10%と仮定すると、FOFは現地国、米国で19%、eMAXIS Slimは現地国のみで10%、その差9%、仮に配当利回りが2%だとすると2%x9%=0.18% FOFが不利になるという事です。言い換えると信託報酬・実質コストがFOFでは0.18%上乗せされると考えても良いでしょう。
信託報酬・実質コストで負けている楽天・新興国株式インデックス・ファンドにさらに0.18%が上乗せされるとするとコスト的にはかなり厳しくなります。
米国ETFの3重課税の詳細は下記記事をご覧ください。
信託報酬の変更履歴
楽天・新興国株式インデックス・ファンドは設定後、1回信託報酬を引下げだ実績があります。ただし、これは投資先ETFの経費率引き下げによるものです。
引下げ日 | 信託報酬(税込) | 備考 |
2017/11/17 | 0.2696% | 新規設定 |
2019/2/26 | 0.2496% | 投資先ETF VWOの経費率引下げ |
2019/10/1 | 0.2520% | 消費税増税(8%-->10%) |
投資先ETFの経費率を除いた信託報酬で同じFOFのSBI・新興国株式インデックス・ファンドに大きく負けているだけに、信託報酬そのものの引下げを期待したいところです。
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楽天・新興国株式インデックス・ファンドの運用状況
資金流出入額 & 純資産総額 (評判・人気は?)
月次資金流出入額、純資産総額から楽天・新興国株式インデックス・ファンドの売れ行き・人気を見てみます。
(*)月次資金流出入額は、日々の純資産総額の増減額に騰落率を考慮して算出した概算値になります。
設定当初は1億(/月)程度の資金流入があったのですが最近は0.5億(/月)にもとどきません。eMAXIS Slim新興国株式インデックスは毎月6~10億ですので全く勝負になりませんが、同じFOFのSBI・新興国株式インデックス・ファンドにも負けています。
純資産もゆっくりとしたペースで増えてはいるものの最近はその伸びが鈍化しています。
楽天・新興国株式インデックス・ファンドの運用状況は?
インデックス、及びETFのパフォーマンス
楽天・新興国株式インデックス・ファンドは設定から2年にも満たず、パフォーマンスを評価するのに十分な運用期間がありません。
そこでインデックス(FTSEエマージング・マーケッツ・オールキャップ(含む中国A株)・インデックス)のパフォーマンスをFTSEエマージング・インデックス等と比較します。
下表は2019年7月末日時点の5年間リターン、リスク、シャープレシオです。
*リターン、リスクは年率、シャープレシオ(S/R)は無リスク資産のリターンを0として計算。
FTSEエマージング ・マーケッツ ・オールキャップ (含む中国A株) | FTSEエマージング ・マーケッツ ・オールキャップ | FTSEエマージング・ インデックス | |
リターン | 2.5% | 2.6% | 2.7% |
リスク | 15.3% | 15.2% | 15.4% |
S/R | 0.16 | 0.17 | 0.18 |
データ引用元:FTSE 各インデックスのFACTSHEET
*ETFのパフォーマンスも比較できると良かったのですが、VWOが今のベンチマークになったのは2016年からでこれも十分なデータがありません。
小型株を含むか否か、中国A株を含むか否かの比較になりますが、この5年間のデータでは、小型株、中国A株を含むFTSEエマージング・マーケッツ・オールキャップ(含む中国A株)・インデックスのパフォーマンスが若干ですが最も悪くなっています。
勿論、この特定の5年間のデータですので今後のパフォーマンスを保証するものではありませんが、少なくとも「小型株を含むからといってパフォーマンスが必ずしも上がるわけではない」という事は言えます。
新興国株式インデックスのパフォーマンスの詳細は下記記事をご覧ください。
月次レポートで見るベンチマークとの乖離
インデックスファンドではベンチマークとの乖離が小さい事がファンド評価の重要な要素です。
(注)ベンチマークの値は除く配当、配当込み、配当込みでも配当に対する課税を考慮するネット、考慮しないグロスと様々で、月報、運用報告書記載のベンチマークとの乖離が必ずしも妥当な値とは限りません。そこで、本サイトではベンチマークとの乖離を同じインデックスをベンチマークとする他のファンドと比較する事で評価してきました。しかし、本ファンドの場合、他に比較できるファンドが存在しない事から致し方なく月報・運用報告書記載の値で評価します。
2019年7月末日時点の月次レポートでのファンド騰落率とベンチマーク騰落率の比較です。
画像引用:楽天・新興国株式インデックス・ファンド月次レポート(2019/7)
ベンチマークとの乖離は設定来(約1年8ヶ月)で-2.1%、ここ1年では-1.2%、6カ月で-2.6%という結果です。
マイナス要因として少なくともコスト分(0.44%)、及びETFの分配金に対する米国課税(3%程度x10%=0.3%?)、合わせて0.8%近くありますが、これを考慮しても大きい乖離です。正確なところは分かりませんが、まだコスト要因以外での運用に起因する乖離があるのではないでしょうか?
まとめ
以上、FTSEエマージング・マーケッツ・オールキャップ(含む中国A株)・インデックスをベンチマークとし新興国株式に投資する楽天・新興国株式インデックス・ファンドの解説でした。
最安値のSBI・新興国株式インデックス・ファンド、eMAXIS Slim新興国株式インデックスファンドには若干負けるものの、新興国株式インデックスファンドとしては十分信託報酬が低いファンドです。
ただ、2期目決算でも実質コストが十分下がっておらず、またベンチマークとの乖離も未だ大きい印象を受けます。
楽天・新興国株式インデックス・ファンドは小型株をも含む新興国株式に国内インデックスファンドで投資できる唯一無二の存在です。
もっとコストが下がれば、資金流入も増え、それがさらなる実質コストの削減につながり、より魅力的なファンドになると推測します。
購入先
楽天・新興国株式インデックス・ファンドは下記の金融機関で購入出来ます。
販売会社 SBI証券、楽天証券 、マネックス証券、auカブコム証券、松井証券、岡三オンライン証券など。
楽天証券なら楽天カード(クレジットカード)で投資信託を積立購入する事が出来ます。勿論ポイント還元があり事実上1%割引で購入出来るようなものです(上限5万円/月)。さらに、そのポイントで投資信託を購入する事も出来ます。
公式サイト楽天カード
尚、本ファンドはつみたてNISA対象外のファンドです。
また個人型確定拠出年金(iDeCo)で取扱っている金融機関も未だありません。
ライバルとなるファンド
楽天・新興国株式インデックス・ファンド(楽天・バンガード・ファンド) *本記事
他の新興国株式インデックスファンドとの比較、最新の人気・運用状況は下記記事を参照して下さい。
インデックスファンドの信託報酬、実質コスト、純資産総額の一覧は下記記事を参照して下さい。